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【映画】グリーンブック 第91回アカデミー賞作品賞 感想レビュー※ネタバレ注意

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第91回アカデミー賞で作品賞を受賞した
「グリーンブック」を見に行ってきました。
日本公開最初の週末とあって、劇場は満員。
上映前、後ろの席のご婦人がアカデミー賞の話をされていました。
作品賞に選ばれても興行的に不発の作品もありますが、
グリーンブックはスマッシュヒット作品になりそうな予感がします。

 

www.kerun7.com

最近の映画のプロモーションを見ると、
やたらと「実話を基に○○」「感動の実話!」など、
「実話」を宣伝文句に使った作品が数多く見受けられます。

以前から「実話」ベースの作品は製作されていましたが、
最近は殊更に「実話」を強調する作品が増えました。

「実話」という言葉は私たちに一つの納得感を与えてくれますが、
「どこまでが実話で、どこまでが演出なの?」と、
ひねくれた私はそんなことばかり気になって、
映画に集中できないこともあります。

グリーンブックも冒頭で「実話を基に~」という
クレジットから映画が始まります。
(※「based on a true story」じゃなくて
「inspired~」という表記だったかもしれません。未確認です。)

あらすじ

時は1962年、ニューヨークの一流ナイトクラブ、コパカバーナで用心棒を務めるトニー・リップは、ガサツで無学だが、腕っぷしとハッタリで家族や周囲に頼りにされていた。ある日、トニーは、黒人ピアニストの運転手としてスカウトされる。彼の名前はドクター・シャーリー、カーネギーホールを住処とし、ホワイトハウスでも演奏したほどの天才は、なぜか差別の色濃い南部での演奏ツアーを目論んでいた。二人は、〈黒人用旅行ガイド=グリーンブック〉を頼りに、出発するのだが─。

グリーンブックとは…

1936年から1966年までヴィクター・H・グリーンにより毎年出版された黒人が利用可能な施設を記した旅行ガイドブック。ジム・クロウ法の適用が郡や州によって異なる南部で特に重宝された。

© GAGA Corporation 公式サイトより

 主なキャスト

トニー・“リップ”・バレロンガ  ヴィゴ・モーテンセン

ドクター・ドナルド・シャーリー マハーシャラ・アリ

ドロレス・バレロンガ      リンダ・カーデリーニ

白人VS黒人 上流階級VS庶民

グリーンブックの物語はシンプルです。

粗暴でガサツなイタリア系・ブロンクス育ちのトニーが、
一流ピアニストの黒人で上流階級のドクター・シャーリーの運転手として、
1960年代のアメリカ南部を旅するというものです。

映画「グリーンブック」が話題になった時に、
黒人運転手と老婦人の心の交流を描き、
第62回アカデミー賞作品賞を受賞した「ドライビングMissデイジー」との
設定の類似性を指摘されたりもしました。


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が、私はこの映画を観た時に「ドライビングMissデイジー」よりも、
刑務所帰りの主人公が、黒人の高級娼婦に運転手として雇われる
「モナリザ」という映画を思い出しました。
サスペンスなんで全然違う展開なんですけどね。


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1960年代のアメリカ社会を、
日本人である私が100%理解することはできません。
でも、情報が偏っているかもしれませんが、
文章や映像などの過去の記録に触れることで想像することはできます。

映画の前半、黒人作業員が口を付けたグラスを
トニーがゴミ箱に捨てるシーンがあります。
差別と偏見を象徴するシーンですが、
私はトニーの行動も少しわかります。
人の考えは社会(環境)に影響を受けますし、
そこから芽生えた感情はコントロールし難いものですから。

ただ、運転手として採用されたあと、
トニーが割と早めにドクター・シャーリーのことを
受け入れている様子にちょっと違和感がありました。
あんなに嫌っていた黒人を金の為とは言え、
結構フレンドリーな感じです。

グリーンブックの対立構図は、黒人VS白人に
上流階級VS庶民が組み合わされています。
ステレオタイプでは白人が上流階級ですが、
この映画の2人の関係に於いては逆です。

そんな全く違う二人が異文化に触れ、
友情を育むというストーリー。
そこに、1960年代のアメリカ南部の社会情勢が深く関わって…。

う~んなんかね~、トニーがメッチャ良いキャラに描かれているんですよ。
映画としては良い感じの話の運びなんですが、
「実話」と声高に言われると良く描かれ過ぎかな?なんて思います。

ヴィゴ・モーテンセンとマハーシャラ・アリ

マハーシャラ・アリは本作で助演男優賞も受賞しました。

2年前の「ムーンライト」に続き2度目の受賞です。


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グリーンブックのマハーシャラ・アリは
結構複雑な役どころであったと思います。
黒人でありながら、黒人文化やコミュニティに疎い
孤独な「はぐれ黒人」を抑えた演技で表現していました。

「ロード・オブ・ザ・リング」をがっつり見た世代にとって、
ヴィゴ・モーテンセンはアラゴルン、王です。
ロン毛でカッコよかった彼が良い感じのおっさんになってました。
グリーンブックでは、粗暴だけど憎めないキャラが自然な感じで良かったです。

ま、この映画は2人のキャラが観客に受け入れられないとダメですからね。

2人の見た目の雰囲気とバランスも良かったです。

妻への手紙が良かった

2人のやり取りのなかでクスッとしたり、
ほっこりしたシーンがたくさんあるグリーンブックですが、
私はトニーが妻への手紙を書くシーンが好きでした。

ドクター・シャーリーが手紙を添削して、
トニーの文章が変化して行く様子は
ロードムービーの縦軸として非常に効果的でした。

後半、トニーが自分の考えた手紙の文章を披露して、
ドクター・シャーリーが褒めるシーンは、
2人の関係性の変化を表す良いシーンだったと思います。

さいごに

人種問題を扱った映画ですが、
観賞後の読了感のようなものは良かったです。

ただ、キレイにまとめられ過ぎているかな~?
だから、なおさらどこまでが実話なの?とも思います。

60年代の物語として描かれたモノが「これは昔話だからね。」
と念押しされているような気が。

同じエピソードを黒人監督が描いたら、
どんな感じになったんでしょうね?